このドキュメントは http://edu.net.c.dendai.ac.jp/ 上で公開されています。
ここではパケット通信を複数のネットワークを越えて実現させるため、 ネットワーク全体で合意してなければならないプロトコルについて説明します。
コンピュータネットワークは多くのコンピュータで共有しています。 従って、相互のコンピュータを区別するため、コンピュータにはアドレスとい う識別子が必要です。 インターネットではさらに複数のネットワークを集約したりします。 そのため、分割されたそれぞれのネットワークにもアドレスが必要になります。 つまり、複数のネットワークを接続したインターネットでの通信にはネットワー クアドレスとコンピュータ(ホスト)のアドレスが必要になります。
IP(インターネットプロトコル) version 4 ではネットワークアドレスとホス トアドレスの対を 32bit = 4 バイトで表現します。各バイトを 0 から 255 までの 10 進数で表現し、ピリオドで区切って表します。つまり、インターネッ トのアドレスは 0.0.0.0 から 255.255.255.255 までになります。
このインターネットのアドレスのうち、一部がネットワークアドレスで、一部 がホストアドレスになります。 この区切りには複数あり、クラスと呼ばれています。
なお、ホストアドレスのうち、 0 はネットワーク全体を表します。 ホストアドレスが 0 の IP アドレスのことをネットワークアドレス と呼ぶことがあります。 一方、最大の値はネットワークに属しているホスト全体を表します。 つまり最大値宛のメッセージはホスト全部が受信する必要があります。 このアドレスのことをブロードキャストアドレスと呼ぶことがあ ります。
0nnnnnnn | hhhhhhhh | hhhhhhhh | hhhhhhhh |
10nnnnnn | nnnnnnnn | hhhhhhhh | hhhhhhhh |
110nnnnn | nnnnnnnn | nnnnnnnn | hhhhhhhh |
1110cccc | cccccccc | cccccccc | cccccccc |
1111xxxx | xxxxxxxx | xxxxxxxx | xxxxxxxx |
インターネットに接続しているホストの IP アドレスは全世界で必ず単一のも のであることを保証しなければなりません。 そのため、世界規模になったインターネットのアドレス管理は国際機関で行う 必要があります。 ICANN(Internet Corporation For Assigned Names and Numbers http://www.icann.org/) は、世界的なア ドレス管理を行うための中央組織です。 各地域から理事を選出して、非営利団体として運営しています。 なお、国際機関が発足する前はアメリカ政府が IANA(Internet Assigned Number Authority http://www.iana.org/) と いう組織を運営していました。 移管が済んだ現在、 IANA という名前は ICANN の資源管理、調整機能の名称 として残っています。
ICANN は世界を 5 つの地域に分け、アメリカは ARIN(American Registry for Internet Numbers) が、 ヨーロッパとその周辺地域は RIPE-NCC ( Réseaux IP Européens Network Coordination Centre http://www.ripe.net/)が、 アジアと太平洋地域は APNIC(Asia Pacific Network Information Centre http://www.apnic.org/)が 、 中南米地域は LACNIC (http://lacnic.net/)が、 アフリカ地域は AfriNIC(http://www.afrinic.net/が管轄しています。 そして、 APNIC の下位組織として日本を管轄するのが JPNIC(Japan Network Information Center http://www.nic.ad.jp/) という組織です。 日本の組織は JPNIC に IP アドレスを割り当ててもらいます。
これらの国際機関は IP アドレスの管理の他、ドメインネームサービスの管理 も行っています。 これは、通常、インターネットのアドレスとして使われる dendai.ac.jp のよ うな名前と 133.20.0.0 というような IP アドレスを結びつけるサービスです。
インターネットの実験や内部 LAN で閉じたサービスなど、グローバルネット ワークに接続しないネットワークでは、 ICANN などのネットワーク組織から 交付されたネットワークアドレスではなく、特定のアドレスを使うことが許さ れています。 これをプライベートアドレスといいます。 プライベートアドレスは次の三種類があります。
クラス | アドレス | 個数 | |
---|---|---|---|
クラスA | 10.0.0.0/255.0.0.0 | 10.0.0.0/255.0.0.0 | 1個 |
クラス B | 172.16.0.0/255.240.0.0 | 172.16.0.0/255.255.0.0 〜 172.31.0.0/255.255.0.0 | 16個 |
クラス C | 192.168.0.0/255.255.0.0 | 192.168.0.0/255.255.255.0 〜 192.168.255.0/255.255.255.0 | 256個 |
家庭用のブロードバンドルータなどはルーティングが必要ないので 192.168.x.0/255.255.255.0 が使われることが多いです。 一方プロバイダ内などでグローバルアドレスを節約するために使われるのは 10.0.0.0/255.0.0.0 です。
IP アドレスのネットワークアドレスは通常一組織には一つしか割り当てられ ません。ですから、何の工夫もしないと一つの組織には一つしかネットワーク を持つことができません。 しかし、現在使用されている Ethernet などの LAN では一つのネットワーク に接続しているコンピュータは高々 50〜100 台程度に抑えるとパフォーマン スが良くなると言われてます。 したがって、組織内に一つしかネットワークが存在できなければ、コンピュー タ授業もろくにできません。
133 | 20 | 160 | 1 |
10nnnnnn | nnnnnnnn | ssssssss | hhhhhhhh |
11111111 | 11111111 | 11111111 | 00000000 |
因みに本館系のネットワークのサブネットマスクは 255.255.248.0 です。
インターネットの中でネットワークを接続する装置をルータと呼 びます(昔は IMP)。 また、異なるプロトコルで接続する装置はゲートウェイと呼びます。 ゲートウェイはルータを含みますので、広い意味での中継装置をゲートウェイ と呼ぶこともあります。
あるコンピュータが別のコンピュータにメッセージを送る場合、次の二つの送 信方法が必要になります。
このように単純にホストであっても、相手によりメッセージの送る相手を変え
る必要があります。
メッセージの送り先を計算することをルーティングと言います。
インターネットのルーティングを行うのに一般的なのはルーティングテー
ブルという表を使って送り方を調べる方法です。
UNIX、MacOSX、Windows、 IOS(CISCO のルータの OS)などでルーティングテー
ブルを表示するには
カーネルIP経路テーブル 受信先サイト ゲートウェイ ネットマスク フラグ MSS Window irtt インターフェース 133.20.160.0 0.0.0.0 255.255.255.0 U 0 0 0 eth0 0.0.0.0 133.20.160.254 0.0.0.0 UG 0 0 0 eth0
「インターフェース」の eth0 はイーサーネットのポートを表しています。 例えば、相手が 133.20.160.1 である場合は、一行目が適用されます。 これは相手先のアドレスを二進列とした時、そのアドレスとネットマスクを AND 演算すると、受信先サイトのアドレスと一致するからです。
一方、相手が 192.0.34.163 の場合、このような計算をしても一行目には一致 せず、二行目に一致します。 そして、フラグ G はゲートウェイを示していますので、ゲートウェイのアド レスにメッセージを渡します。
受信先サイト、ネットマスクとも 0.0.0.0 であれば、どのようなアドレスで あれ、ネットマスクと AND 演算をすれば受信先サイトに一致します。 この 0.0.0.0/0.0.0.0 というアドレスはインターネットを表し、通常 デフォルト と呼ばれたりします。 そして、このアドレスに対するゲートウェイをデフォルトゲートウェイ と呼びます。
ここでは正式なプロトコルのフォーマットを見ていきましょう。 フォーマットはヘッダとボディに別れていて、ヘッダは可変長で最小 20 バイ ト、最大60 バイトになります。 ボディとヘッダは合わせて 65535 バイトまでで、その長さはヘッダの中で指 定します。 ヘッダ内の数値はビッグエンディアン、つまり上位のビットを左から並べた形 になります。 なお、Pentium などの CPU はリトルエンディアンなので送受信で変換が必要です。
0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
バージョン | IHL | サービスタイプ | 全長 | ||||||||||||||||||||||||||||
識別子 | DF | MF | フラグメントオフセット | ||||||||||||||||||||||||||||
生存時間(TTL) | プロトコル | ヘッダー・チェックサム | |||||||||||||||||||||||||||||
送信元アドレス | |||||||||||||||||||||||||||||||
宛先アドレス | |||||||||||||||||||||||||||||||
オプション(最小 0 最大 40 バイト) |
ICMP(Internet Control Message Protcol) はインターネットを管理するため の IP パケットを利用したメッセージです。 主なメッセージのタイプには次のようなものがあります。
メッセージタイプ | 説明 |
---|---|
宛先到達不能 | パケットが配送されない |
時間超過 | TTL が 0 になった |
パラメータ障害 | 間違ったヘッダーフィールド |
送信元抑制 | 送信元に対して、トラフィック量を減らすように通 知する |
方向変換 redirect | 中継ルータを教える |
エコー要求 | ルータがいきているかどうかを尋ねる |
エコー応答 | 生きていることを返答 |
タイムスタンプ要求 | エコー要求でタイムスタンプも要求する |
タイムスタンプ応答 | エコー応答にタイムスタンプを付加する |
ping コマンドはこの ICMP のエコー要求メッセージを送るコマンドです。 これにより相手が生きているかどうか、また往復にどれくらい時間がかかるか などがわかります。 traceroute (Windows では tracert) は相手先の未使用のポートに対して、 TTL の小さいパケットを送ることで、途中の中継点で時間超過 ICMP メッセー ジを発生させます。その結果、中継点の IP アドレスを知ることができます。
IP version 6 は既存の IP version 4 のアドレス空間の狭さやセキュリティ 問題に対応するため 1995 年に仕様が制定され、 2000 年からは JPNIC でも アドレスの割当が始まりました。 現在、ほとんどの OS で対応されています。 但し、普及していると言う状況ではありません。
IPv6 の主な特徴は次のとおりです。
0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
バージョン | トラフィッククラス | フローラベル | |||||||||||||||||||||||||||||
ペイロード長 | 次ヘッダー | ホップ制限 | |||||||||||||||||||||||||||||
送信元アドレス1 | |||||||||||||||||||||||||||||||
送信元アドレス2 | |||||||||||||||||||||||||||||||
送信元アドレス3 | |||||||||||||||||||||||||||||||
送信元アドレス4 | |||||||||||||||||||||||||||||||
宛先アドレス1 | |||||||||||||||||||||||||||||||
宛先アドレス2 | |||||||||||||||||||||||||||||||
宛先アドレス3 | |||||||||||||||||||||||||||||||
宛先アドレス4 |
IPv4 ではアドレスは 192.168.0.1 など、 0 から 255 までの十進数の 4 つ 組をピリオドで区切って表記してました。 一方 IPv6 では FEDC:BA98:7654:3210:FEDC:BA98:7654:3210 のように 4 桁の 16 進数(16bit)の 8 つ組をコロン : で区切って表記します。 なお 0 で始まる値に関しては、0123 → 123, 0012 → 12, 0001 → 1, 0000 → 0 と、数字がすべて無くらならい範囲で 0 を省略可能です。 また 0 の組が連続する時、その 0 の組すべてを省略するため一回だけ :: と いう表記が使えます。 例えば、次のようなアドレスを考えます。
1080:0:0:0:8:800:200C:417A | ユニキャストアドレス例 |
FE01:0:0:0:0:0:0:101 | マルチキャストアドレス例 |
0:0:0:0:0:0:0:1 | ループバックアドレス |
0:0:0:0:0:0:0:0 | 未設定アドレス |
これは :: を使うと次のように表せます。
1080::8:800:200C:417A | ユニキャストアドレス例 |
FE01::101 | マルチキャストアドレス例 |
::1 | ループバックアドレス |
:: | 未設定アドレス |
また下位 32 bit が IPv4 のアドレスを指すという混在環境において、下位 32 bit だけ従来の十進数 4 つ組をピリオドで区切った表記もあります。 例えば 0:0:0:0:0:0:13.1.68.3 や ::13.1.68.3、あるいは 0:0:0:0:0:FFFF:129.144.52.38 や ::FFFF.129.144.52.38 のように書きます。
IPv6 もアドレスを二分割して考えます。有効な上位bit の長さを表すため、 IPv4 と同様に / の後に十進数で長さを書きます。 以下は例です。
IPv4 ではアドレスの上位 4 bit で最初に 0 が来る位置によりクラスを 5 個 に分けていました。 一方、IPv6 では上位 10 bit でアドレスの性質を表します。 これは以下のようになっています。
アドレスタイプ | IPv6 | IPv4 |
---|---|---|
未設定 | ::/128 | なし |
ループバック | ::1/128 | 127.0.0.1/32 |
マルチキャスト
(ブロードキャストを含む) |
FF00::/8 |
224.0.0.0/4
ホストアドレス部すべてが 1 |
リンクローカルユニキャスト | FE80::/10 | なし? |
サイトローカルユニキャスト | 廃止(RFC3879) | 10.0.0.0/8, 172.16.0.0/12, 192.168.0.0/16 |
グローバルユニキャスト | その他のアドレス。 | プライベートを除く 0.0.0.0/1, 128.0.0.0/2, 192.0.0.0/3 |
ユニークローカルユニキャスト | FC00::/7 (RFC4193) | なし |
なお、IPv4 でローカルなブロードキャスト 255.255.255.255/32 に対応する IPv6 アドレス(ローカルなホスト全てへのマルチキャスト)は FF02::1/128 です。
ユニキャストのアドレスは通常上位 64 bit がネットワークアドレスで、下位 64 bit がインターフェイスアドレスになっています。
下位64bit は通常インターフェイス固有の MAC アドレスなどから自動的に設 定されます。 改訂EUI-64 フォーマットと呼ばれるアドレスの計算方法は次のようになりま す。 Ethernet アダプタに固有に割り振られている MAC アドレスは 48 bit で通常 は二桁の 16 進数(8 bit) の 6 こ組をハイフンで結んだものになっています (XX-XX-XX-XX-XX-XX )。
上位の 64 bit に関しては、通常組織に上位 48 bit が割り当てられ、16bit がサブネットになります。 現在 2000::/3 の割り当て、つまり 2000:0:0::/48 から 3FFFF:FFFF:FFFF::/48 が割り当て対象になっています。 但し、特殊なアドレスとして次のものがあります。
例えば 00-0B-97-28-C6-D5 という MAC アドレスを持つマシンがサブネット 番号 1 に接続されている場合、グローバルなユニキャストアドレスの例とし ては 2001:0DB8::1:020B:97FF:FE28:C6D5 などになります。
IPv4 アドレスを下位 32 bit に埋め込んだアドレスを使うと、 IPv6 ルータ でもルーティングができます。 IPv4互換アドレスとは上位の 96bit がすべて 0 のアドレスです。 例えば 133.20.160.1 であれば ::133.20.160.1 で表されます。
一方、IPv4埋込みアドレス とは IPv4 アドレスを IPv6 アドレスとして表す ものです。 上位 80 bit が 0 で、 16 bit が 1 となり、その後 IPv4 アドレスが続きま す。 例えば 133.20.160.1 であれば ::FFFF:133.20.160.1 で表されます。
ローカルリンクネットで使えるアドレスは FE80::/64 インターフェイスID です。 例えば 00-0B-97-28-C6-D5 という MAC アドレスを持つマシンのリンクロー カルアドレスは FE80::020B:97FF:FE28:C6D5 となります。
なお、ローカルアドレスはネットワークアドレスが共通のため、インターフェ
イス番号をアドレスの後ろに %n という形で付加する必要があります。
Windows では
RFC 3513 にはサイトローカルアドレスも定義されていますが、技術的な問題 点が指摘されたため RFC3879 で廃止されています。
近隣のホストやルータなど、どのホストでもいいから一台と通信したい場合 (IPアドレスが欲しい場合など)、エニーキャストアドレスを使います。 これはインターフェイス ID が 0 になっているものです。
複数のホストとやりとりするためのアドレスがマルチキャストアドレスで、上 位 8 bit が 1 、次の 4 bit がフラグ、次の 4 bit が範囲を示しています。 範囲は 1 がインターフェイス、 2 がリンクローカル、 4 が管理者ローカル、 5 がサイトローカル、8 が組織ローカル、 E が全域となっています。 例えば、 NTP のグループ ID は 16 進数で 101 となっていますので、マルチ キャストアドレスは以下のようになります。
すべてのノードのグループ ID は 1, すべてのルータのグループ ID は 2 で す。
インターネットには v4 と v6 のゲートウェイが設置されていて、相互に通信 が可能になっています。 手元で v6 ネットワークを立ち上げたが、 v6 ネットワークと直接接続できな い場合、 v6 ゲートウェイにトンネルと言う手法で接続できます。 トンネルとは v6 のパケットを v4 のアドレスを付けて運ぶものです。 そのため「 2002:v4 アドレス ::v4 アドレス」というアドレスを使うことに なっています。