パソコンを使った便利なツールとしてつぎを挙げておきます。
線形性とは足し算や定数倍ができるようなものを言います。 増幅器が次の性質を持てば線形であると言えます。
実際の電子回路の動作を、なんの条件なしに解析するのはとても複雑です。 例を示します。 コンデンサだけの単純な回路(一応四端子)を考えます。
前期では、次のような立場をとってました。
与えられた回路はこの立場では次の回路になります。
V2=V1 より 電圧利得は 1 となり、入力信号は直接出力に伝えられます。
しかし実際にはそのようなことはありません。 前期の立場は回路の大まかな動作原理を理解するには便利ですが、回路の特性 を考えるにはあまりにも雑です。
そこで本講義ではコンデンサを導線とはみなさない立場をとります。
入力信号として時刻tを一般の関数f(t)で解析すると非常に複雑になります。 ここでは入力電圧V1=f(t)をこの回路に入れた時、出力電圧 V2がどうなるか計算してみましょう。
コンデンサにかかる電圧をVCとすると、公式 Q=CVより
1 VC=---Q C
(Q は電荷、 Cはコンデンサ固有の静電容量)。
電荷の量は電流の積分になるので、V1をI で表すと次のようになる。
1 V1=---∫Idt+RLI C
これをIについて解くと次の式が得られる。
1 I = ---e-t/RLC∫V1'e-t/RLCdt RL
従って求めるV2=RLIは e-t/RLC∫V1'e-t/RLCdt となる。 もとの関数に対して微分や積分の処理をしなければならない。
解析を簡単にするために次の 4 つの事実を用います。
一般の入力信号f(t)は周波数の異なる正弦波の和とし て表すことが出来ます(フーリエ変換)。 線形電子回路では「正弦波の和」を増幅することと、正弦波をそれぞれ増幅し た後に足し合わせることは同じ事になります。 つまり、正弦波がどのように増幅されるかだけを考えれば、一般の入力信号が どのように増幅されるかがわかります。
一方、正弦波をオイラーの定理を用いて指数関数の形で書いて与えると、微積 分の解析が不要になります。 (電気回路ですでにならったとおり)角周波数がωの時、静電容量 C のコンデンサ、自己誘導 Lのコイルはそれぞれイン ピーダンスが 1/(jωC), jωLとなり、これを用いて 回路方程式を解くことにより、回路の特性がわかります。
入力信号として、正弦波を考えます。 正弦波の一般的な形は Acosωt+θ です。Aは振幅、ωは角周波数、tは時刻、 θは位相を表します。 但し、オイラーの公式に基づいて指数関数で表すと Aej(ωt+θ) と表せます。
ここで、先ほどの前提より単一の周波数ωだけに固定して考えま す。 正弦波は角周波数、振幅、位相で決定されますが、ωのある項 を省略してしまうと、入力信号は Aejθ として表すことができる。 これは外見上単一の複素数になってしまいます。このような表示のことをフェー ザーと呼びます。
電圧や電流がこのように一つの複素数として扱われている時、 V・, I・, と表します。
この解法により上記の回路の特性を調べます。 入力信号をV・1 とすると、 出力信号をV・2 は、次のように表されま す。
RLV・1 ----------- 1 ---- + RL jωC
したがって電圧利得は次のように複素数になります。
1 A・v = ------------ 1 ------- + 1 jωCRL
実数に√-1=jを加えた集合を複素数と言います。 jにどんな実数をかけても実数になりませんから、複素数の表示は (実数)+j(実数) という実数の二つ組になります。 複素数 z=p+jq に対して pを実部(Real Part) qを虚部(Imaginary Part) と言います。 p-jq を共役と言います。 複素数の大きさ|z|は√ (p2+q2)で表されますが、こ れは複素数に共役をかけたものの平方根になります。
実部を横軸、虚部を縦軸にとった平面を複素平面と言います。 複素数 z=p+jq に対して、原点か ら複素平面上の座標までの距離は大きさになります。 また、横軸とのなす角を偏角と言います。 大きさがA、偏角θの複素数の 実部は p = Acosθ 虚部は q = Asinθ なので tanθ=q/p より偏角は θ =arctanq/pとなります。
複素数を指数関数の形で表示するとかけ算、割算が容易になります。 z1=A1eθ1, z2=A2eθ2 に対して z1z2 は A1 A2 e θ1 +θ2 に対して z1/z2 は (A1/ A2) e θ1 -θ2 となります。
-1 = ejπ, j = ejπ/2, -j = e-jπ/2 ですので、次が成り立ちます。
-Aejθ = Aejθ+π jAejθ = Aejθ+π/2 -jAejθ = Aejθ-π/2
分数の分母に複素数がある場合、分母の共役を分子分母にかけると分母が実数 になります。
1 1 p-jq ------ = ------×------ p+jq p+jq p-jq p-jq = ------ p2+q2
利得などエネルギーの比はしばしば対数を用いて表されます。 通常10を底にした対数を 10 倍したものに単位として dB(デシベル)を付けて 表します。 例えば、入力に対して、出力が 100 倍になった時、 10×log10100 = 20 dB の利得があると言います。
一方、電圧比や電流比に関しては 10 倍ではなく 20 倍します。 例えば、入力の電圧に対して、出力の電圧が 100 倍になった時、 電圧比は 20×log10100 = 40 dB です。
利得をデシベルで考えると多段の増幅器を接続した場合、全利得はすべての利 得の和で表すことができます。
log102=0.301, log103=0.4771, log105=log1010/2=1-log102=0.699 より、 2倍の利得は 3dB, 3 倍の利得は 4.7dB, 5倍の利得は 7dB などとなります。
次の回路の電流利得を求めなさい。